Goggole Text
ゴッゴル・テキスト


〔アイヌの伝説〕 ゴッゴルとキムン・カムイ

アイヌ人にとっての熊

アイヌ語では熊の事をキムン・カムイ=山の神という。
その他にも熊を表す言葉は沢山あり、狩猟採集民族であるアイヌの人々にとって狩りの上手い熊は特別な神聖なものだった。
しかし熊が山の神として敬われた理由はそれだけではない。

ニホンオオカミの襲撃、そして・・・

ある年、季節はずれの大嵐で山中の木の実が熟す前に全て落ちてしまった。
ユク・ルペシペ(現在の鹿越、南富良野町)にあった小さなコタン(村)には冬を越すための充分な蓄えがなかった。
しかしそれは山の獣たちも一緒でニホンオオカミが夜毎にコタンを襲撃した。
男達は勇敢に戦い、火を怖がるニホンオオカミを七日七晩退けた。
しかし狡猾なゴッゴル達はコタンの男達が連日の夜戦に疲れてきた頃を見計らって白昼堂々とコタンを襲った。

不死身のゴッゴル

男達は怯まず弓矢で応戦した。しかしゴッゴルは一撃で雄のユク(エゾシカ)を倒すアイヌ弓をものともせず襲い掛かってくる。
ゴッゴルは山の神のなれの果てであり、人の武器では決して死ぬことがないのだった。
あるオクチカネ(青年)が火を熾し松明をかざすと穢れ神(けがれがみ)であるゴッゴルは火を嫌がりようやく山へと逃げ帰った。


コタンの危機

それから数日間は青年の機転のおかげで犠牲者は出なかった。
しかしこのまま、夜はニホンオオカミ、昼はゴッゴルという状況が続けば狩りのための矢も冬を越すための薪も底をついてしまう。
エカシ(長老)は急遽村中のものを集め話し合いを行なった。
松明をかざした青年がキムン・カムイに助けを求めることを主張し、自らその役を買って出た。

キムン・カムイとの交渉

青年が山奥のキムン・カムイの長の元へいった。すると大きな体躯の、眩しいばかりの月の輪を持つ一頭の熊が彼を待っていた。
青年は助けを請うた。がしかし、キムン・カムイの長は言った。
「如何に落ちぶれたとは言えゴッゴルは元々山の神であり人間に肩入れすることは出来ない」

青年の機転再び

青年は困ったがここでも機転を利かせた。「ゴッゴルが火を怖がることは判っております。
しかしゴッゴルとの戦いに火を使ってしまうと、たとえゴッゴルに勝っても冬を越すことは出来ません。
だからその貴方の胸元に輝く月の輪を私達人間に下さい、
ゴッゴルの牙とツメには自らの体で立ち向かいましょう」と言ったのだ。

交渉成立、月の輪

キムン・カムイの長はアイヌの青年の言い分ももっともだと考え、
一族の月の輪を全てアイヌの青年に渡した。青年は村に戻ると月の輪を松明にして
村を囲い、残りの月の輪で鏃を作らせて戦いの準備をした。
月の輪は夜になると一層輝き、ニホンオオカミは近寄って来なかった。

ゴッゴルの敗北

翌日の昼、月の輪の輝きが一番弱くなった真昼間にゴッゴルの大群が現れた。
男達はゴッゴルをぎりぎりまで引き付けて一斉に月の輪の鏃をつけた矢を放った。
するとアイヌ弓をもろともしなかったあのゴッゴルが粉々に砕け散った。
それに驚いた残りのゴッゴル達は慌てて山へ逃げ帰った。
しかし人の武器では決して死なないゴッゴルはキムン・カムイの月の輪の鏃でバラバラになってもまだ生きていた。
そしてそのゴッゴルの破片一つ一つが「コロポックル」になった。
アイヌの人々は熊たちに感謝し、その日から一層熊を敬うようになった。

ゴッゴル改めコロポックルの改心

その冬、コタンの人々が寒さと飢えで困っている時
改心したコロポックル達がどこからかやってきて山の幸を運んでくれた。
そのおかげでコタンの人々は何とか生きのびる事ができたという。


コロポックルとヒグマ

今でも火と月の輪を怖がるコロポックルは、じめじめとした蕗(ふき)の下に住んでいる。
しかし冬の飢饉を救ったことからアイヌの人々はコロポックルを幸せを運ぶ救いの神様として祭るようになった。



北海道の熊がヒグマで、「月の輪」を持たないのは、アイヌの人々に月の輪を授けたからなのだ・・・


by catfrog
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