僕は高校生の頃、よくオートバイで湘南海岸へ遊びに行っていた。
ある日、浜辺から西湘バイパスを通る「オートバイや車」を見ていた時の事
1台の黒いオートバイが何の音もさせず 「スーッ・・・」 と走り去って行った。
不思議だった、とても印象的だった。
それから僕の人生の中で定期的にその光景が頭の中を蘇るようになっていた・・・ 

排気音さえ聞こえなかったと思う、少し距離は離れていたけど他のオートバイの音は聞こえて来る。
そのスタイルは目に焼き付いていたので帰ってから自分なりに調べてみた。
国産車ではないと言う事は何故だかその時でもわかったので
外国車の出ている本を探し、その中で「BMW」というメーカーの物を見た時
アッ これだ!間違いない、このオートバイだった・・・と心の中で叫び、その本を買って来た。
しかし若干16歳の僕にはメカの知識も何も無く、何故「音」がしないのかと言う疑問は
いつしかそのままになっていた・・・。


BMW最後の単気筒 R−27



もともと国産旧車に興味の有った僕は中々BMWに辿り着かなかった。
一時「R80GS」に乗っていた時、そのポテンシャルに驚いてはいたのだけれど
一般的に言われている「旧タイプ」のBMWには縁が無かった。しかし購入出来る縁が無い
という事であって、旭川に来てから僕の廻りにはこの旧タイプのオーナーがとても多いので日頃
見る事は多かった。その後「DSK」を所有する事になり、いつしか忘れていた「疑問」がその時に解決した。



僕の好きなライラック号の単気筒とDSKの単気筒の部品を比較すると遥かにDSKの部品の精度が高かった。
こんなに素晴らしい部品で組み上げて行くならメカノイズが少なくなって当然だ、さすが「BMW」をバラして
部品の材質検査まで行い、それをフルコピーして作っているのだから完成されているのだなあと思った。
しかし今度はその素晴らしいDSKの部品とBMWの部品を並べて比べた時、なおBMWの物の方が
良い作りをしていたのにびっくりした。ドイツの工作技術の素晴らしさは凄い、
40年以上も前にこのような優れた部品を作り上げるという
技には本当に脱帽させられた。


このR27は1996年に新品パーツを可能な限り使って、あるエンスージアストによりフルレストアされたものだ。
僕自身、単気筒の旧タイプを試乗したのはR25/3だけだった。R26をコピーしたDSK/ABは乗っていたので
R25〜26の乗り心地は多少なりとも記憶に新しい。しかしこのR27を手に入れ初めて乗ったとき、今までの「BMW」の
概念が少しばかり変わったので書き残しておこうと思った。




このR27は前モデルとは全く違い、高速型に改良されている。
クランクシャフトやピストン形状もR26とは違いコンプレッションが高くなっていて
R26の15psからR27は18psまで出力が上がっている。
それとエンジンマウントがラバーとされているのだが、しかし低速での振動は非常に煩わしいものだ。
60km/h以下だと3速までしか使えない。単気筒らしく、のんびりトコトコ走るなどと言う事はとうてい出来ない。
1速、2速、3速と各ギアで引っ張らなければステアリングのブレが治まらない。
しかし70km/hを越えてくると一気に振動は治まり、むしろスピードが上がる程に安定感が強まってくる。
そして100km/hに達しても僅かな排気音しか聞こえない・・・。
エンジンのメカノイズが無いと言う事は回転が上がってもエンジンからは音がしないと言う事である。
だからライダーには風の音と僅かなマフラーからのサウンドしか聞こえてこないのだ。
信じ難い程の技術がドイツに有る事を思い知らされた・・・。



BACK